大判例

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大阪高等裁判所 昭和43年(ツ)4号 判決

上告人

文鎮南

代理人

吉田清悟

被上告人

松井定太郎

代理人

松本健男

主文

原判決を破棄し、本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

上告理由について。

本件異議を理由あらしめる事実として被上告人が主張する事実は、(1)「本件判決の口頭弁論終結の後である昭和三四年三月二九日、上告人、被上告人代理人奥谷勝亮間において、被上告人が上告人に対し金三五、〇〇〇円を支払つたときは、上告人、被上告人間に存する争いを止める旨の和解契約が成立した。」(2)「被上告人代理人奥谷は、上告人に対し、同日、金三五、〇〇〇円を支払つた。」という事実である。

原審判決は、(1)の事実を当事者間に争いのない事実としたうえ、挙示の証拠により、「本件判決で被上告人は上告人に対し金三〇、〇〇〇円及びその付帯損害金の支払をなすべきことを知つた奥谷が上告人、被上告人間の感情を良くするため仲裁に入ることとなり、奥谷、上告人間に、昭和三四年三月二九日頃、奥谷が既に上告人に売渡し、仮登記手続をした農地につき上告人のため本登記手続をなし、これに対し上告人が奥谷に金三〇、〇〇〇円を支払う旨の合意が成立し、さらに、奥谷が右金三〇、〇〇〇円の債権をもつて被上告人のためにその負担する前記金三五、〇〇〇円の債務を履行したこととし、結局上告人、被上告人間及び上告人、奥谷間の債務関係一切を清算する旨の合意が成立した。」との事実を認定しているから、右認定事実は、(2)の主張事実に相応するものとして認定されたものであり、これによつて(1)の事実の和解契約に定める被上告人の上告人に対する金三五、〇〇〇円の支払がなされたこととなり、そのことによつて本件債務名義たる判決に記載されている債務は消滅したと判断したものであることは明らかである。思うに、右認定事実は、本件異議権の範囲内の事項であるといえるけれども、(2)の事実とは別異の事実であつて、本件口頭弁論期日に当事者双方の主張事実として現れていないことは本件記録に徴し明白である。そうすると、原審判決の事実の認定は、当事者双方の主張しない請求を理由あらしめる事実を認定した点において狭義の弁論主義に違背するものであり、論旨は理由があり、原審判決は破棄を免れない。しかして、原審判決の挙示する甲第一号証の二、三と甲第三号証とは全く矛盾し、前者は、右認定事実の資料となり得るけれども、後者は、上告人が奥谷から買い受けた田地につき被上告人が仮登記を本登記とすることに協力する代償として奥谷が右田地のために負担した税金その他の費用等を金三〇、〇〇〇円として、これを上告人の奥谷に対する債務とする旨の合意が成立し、内金二〇、〇〇〇円を上告人が即座に支払い、残金一〇、〇〇〇円は本登記完了の際支払うこととした事実の認定資料とすることができ、原審における証人奥谷勝亮の証言並びに原審における上告人本人尋問の結果中右甲第三号証に符合するものがあり、しかも、甲第一号証の二、三は上告人において第一審以来偽造文書であるとして争つているのに反し、甲第三号証はその成立につき当事者間に争いがないところであることは本件記録に徴し明らかである。右のような証拠があり、かつ請求を理由あらしめる事実として被上告人の主張する事実が頭書のような本件において、前記のような事実を認定するためには釈明権を行使して、被上告人からその旨の主張あるをまち、かつ前記第三号証の排斥されるべき所以につき審理を尽すことが必要であるから本件を原審に差し戻すべきものとする。

よつて、民事訴訟法第四〇七条に従い、主文のとおり判決する。(金田宇佐夫 西山要 中川臣朗)

上告理由

原判決には被上告人の主張する請求原因事実と異なる事実を認定し、明らかに判決に影響を及ぼす弁論主義違背の違法がある。

一、原判決事実摘示中第二の一、「被控訴人(被上告人)の請求の原因」の3項には次のとおり記載されている。

即ち「(1)本件判決の口頭弁論終結の後である昭和三四年三月二九日、控訴人(上告人)、被控訴人(被上告人)代理人奥谷勝亮(以下奥谷という)間において被控訴人(被上告人)が控訴人(上告人)に対し金三五、〇〇〇円を支払つたときは、控訴人(上告人)、被控訴人(被上告人)間に存する争いを止める旨の和解契約が成立した。(2)しかして被控訴人(被上告人)代理人奥谷は控訴人(上告人)に対し、同日金三五、〇〇〇円を支払つた」

二、ところで前項(1)の主張事実については当事者間に争いがないので、問題は前項(2)の主張事実に対する認定である。

原判決は右主張事実に対する認定として「本件判決で被控訴人(被上告人)は控訴人(上告人)に対し金三〇、〇〇〇円及びその付帯損害金の支払をなすべきことを知つた奥谷が控訴人(上告人)、被控訴人(被上告人)間の感情を良くするため仲裁に入ることになり、同(昭和)三四年三月二九日ごろ奥谷が既に売渡し仮登記手続をした農地につき控訴人(上告人)のため本登記手続をなし、これに対し控訴人(上告人)が奥谷に金三〇、〇〇〇円を支払う旨の合意が成立し、さらに、奥谷が右金三〇、〇〇〇円の債権をもつて被控訴人(被上告人)のため、その負担する前記金三五、〇〇〇円の債務を履行したこととし、結局控訴人(上告人)、被控訴人(被上告人)間および控訴人(上告人)、奥谷間の債権債務関係一切を清算する旨の合意が成立した」として、これで前項(2)の主張事実たる「被控訴人(被上告人)代理人奥谷が控訴人(上告人)に対し金三五、〇〇〇円を支払つた」ことが認められるものと断定している。

しかしながら右認定事実は、第一項(1)、(2)の主張事実とは全然別個の和解による本件債務名義の内容たる請求権の消滅を認定しているものといわねばならない。いわんや右(1)の主張事実は被上告人の請求原因であり、かつそれが当事者間に争いのない事実であるからして、それと異なる他の事実を認定することは民事訴訟法上許されない筈である。

三、要するに、第一項(2)の主張事実は同項(1)の主張事実たる和解契約の停止条件成就の主張なのであり、「被上告人又はその代理人の上告人に対する金三五、〇〇〇円の支払の事実」の有無と異なる事実の認定はすべきでないにかゝわらず、原判決は前述のとおり、全く別個の契約による本件債務名義の内容たる請求権の消滅を認定した違法がある。これは民事訴訟法の各法規が当然の前提とする狭義の弁論主義に違背したものというべきであり、原判決は破棄を免れないものである。

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